シャーヒ・ジンダ廟群2
あっ、と思った。それはクサム・イブン・アッバース廟でコーランを聴いていた時だった。目の前の老女が「オーミン(両手で顔を覆う動作をして、祈りを捧げること)」をしたのだ。誰の目を気にするでもなく、ごく自然な動き・・・入国後(ラマダン中なのに)街にアザーンが流れず、断食はおろか人前で普通に酒を飲む地元民を見て「なんだかなぁ〜?」と感じていた。ソ連政権下では宗教は過去の遺物とされ、国内のモスクやメドレセは最小限度に減らされた。徹底した宗教分離策がとられ、若い世代には無神論教育がなされた。また「公務員」がムスリムと知れると昇進の機会は失われ、解雇されることも珍しくなかったという。そんな状況だから人々はムスリムであることを隠し、やがて宗教に対する愛着も弱くなっていったと聞いた。現在残るモスクやメドレセは観光用の綺麗な空箱なのか・・・・・だが、ソ連崩壊後、ムスリムは自らの信心を隠す必要がなくなった。ここに祈る人がいる。オーメンのジェスチャーを終え、老女は顔をあげたが、その眼は僕達の見えないものを見ているかのようだった。